香りと室礼作品

名物裂の香ばさみ

名物裂の香ばさみ

 原宿駅を出て右へと曲がり第一の鳥居をくぐりぬけると、覆いかぶさる木立から差し込む木漏れ日の中、ひんやりと空気が変わるのを感じることでしょう。境内の三分の二が木々に囲まれている明治神宮は、都会にいながら森林の香りに包まれる安らぎの場所として愛されています。しかし、この森が人工的に作られたものであることを知る方は少ないことでしょう。

 明治45年、日本の近代国家建設に力を尽くされた明治天皇が崩御されました。その直後より天皇を偲ぶ声が高まり、政府はこの声に応えて皇室との縁深い代々木の台地に明治神宮の建設を決定するのでした。ジャリッジャリッという砂利の感触を踏みしめながら参道を進むと、ひたすら落ち葉を掃き清めている人に出会います。長い竹ぼうきを腰に当て、グルッと円を描くように扱って砂利の上の枯葉だけを集めるこの地道な清掃作業は、毎日早朝7時から始められています。こうして竹篭に集められた落ち葉の山は、すべてが森へと返されることで自然の堆肥となり、神宮の森を潤していくのです。

 春には桜そして爽やかな新緑、初夏には紫や白の花菖蒲や輝く睡蓮池、秋の日の菊花に楓の紅葉など四季折々に私たちの目を楽しませてくれるこれらの景観は、人為を加えないという信念のもと、こうした人力による地道な管理によって守られているのですね。

 今回は香に対する造詣がことのほか深かったとされる明治天皇を偲び、気品ある名物裂を用いて神宮で販売されている香包みをおさめるための香ばさみをつくりましょう。
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