『香り花房・かおりはなふさ』では、日本の香りと室礼文化を研究しています。

香り花房 ー『香りと室礼』文化研究所 ー
香りの情景

ジャ香の香り

 香水などのフレグランスの元となる数千種にもおよぶ天然香料の中で、異彩を放つ存在といえば野生動物から得られる動物性の香料でしょう。
 「セクシーで暖かく、人の肌から発散される香りにも似ている・・・」と表現されるこの香りには、人間の本能へと働きかける何かが秘められているのかもしれません。

楊貴妃の愛した香袋

「長恨歌」


 長安を都とする中国・唐の時代に、華やかなロマンスとして伝えられる玄宗皇帝と楊貴妃の愛の物語。
 詩人“白楽天”によりつづられた「長恨歌」には、二人の出会いから悲しみの幕切れ、さらに死後の世界までが切なく描かれ読む人の涙を誘います。

 


・・・この世に生をうけたその時から天性の美しさを具えていた楊貴妃は、時の皇帝である玄宗皇帝にみそめられ、おそばに仕えることとなりました。
 愛し愛され蜜月を重ねる二人は、春の夜の短さを恨むように、陽が高くなるまで姿を現しません。次第に、帝は朝の執務を行わず、酒宴にはべるようになるのでした。
 楊貴妃は、春は春の遊びに伴い、夜は夜でひとりおそばに仕えます。
皇帝のお出ましを待ち望む後宮の三千人もの美女をしりぞけ、玄宗皇帝の寵愛を一身に受けるのでした。・・・

玄宗皇帝 幸せな月日を過ごす二人でしたが、安録山(あんろくざん)という人物の出現をもって事態は悲劇へと流れ込んでいきます。
 異民族ながら言葉たくみな安録山は、皇帝の信頼を得て子供のいなかった楊貴妃と養子の縁組を結ぶほどに親密になります。が、その人なつこい顔の裏では兵を起こす機会をうかがっていたのでした。

 攻め太鼓の音が大地を揺るがし、ついに安録山の兵が攻め入ります。
 不意をつかれた玄宗の軍はなす術もなく、都を逃れていくしかありませんでした。
 力尽き、飢えそして疲れ果てた兵士達は、もう誰も動こうとしません。
 極度の敗北感の中で、彼らの抑えきれない怒りが爆発し、その矛先は皇帝の心を惑わし執務をおろそかにさせた寵妃・楊貴妃へとむけられます。
 暴徒と化した彼らは、帝の必死の制止もかなわず、ついに彼女を殺してしまうのでした。
 貴妃が殺されたとされる場所は、都であった長安から西へ70キロの馬嵬(ばかい)という宿場で、彼女は将軍の一人に絹の組紐で絞め殺されたとも、黄金の粉を飲まされ毒殺されたとも伝えられます。

 22歳で妃となり、38歳でその生涯を閉じた彼女ですが、最愛の女性を救うことのできなかった帝の嘆きはいかばかりだったでしょう。
 しかし本当の苦しみは、この後にこそ訪れるのでした・・・。

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