

歴史の宝庫といわれる奈良の正倉院には、中国・唐の時代と時を同じくする様々な文物が保存されていますが、その中に、福豆形の小さな香袋が7つ残されています。
愛らしいかたちと1.8×2.6センチという大きさから、唐の貴婦人の間で流行した香袋と同じものではないかと推測されます。
ここに玄宗皇帝が、愛する楊貴妃にあげた香袋の一説がありますのでご紹介しましょう。

・・・月日が経ち、安録山の死去によって玄宗皇帝の一行は都へと帰る時を迎えました。涙も枯れ果て悲しみばかりが募る帝は、泥の中に埋めたままになっている楊貴妃の亡骸をひそかに改葬しようと使いを出します。すると埋めたときの紫の衣は朽ち果て、肌もすでになく、かつて与えた香袋のみが残っているのでした。使者がうやうやしくこれを献ずると、帝は悽わん(せいわん)な面持ちで、ジッと見つめるばかりでした。・・・
この文に登場する香嚢(こうのう)とは、はたしてどのようなものだったのでしょうか?
身体が朽ちてもなお残り、変わらぬ匂いを発していたといわれる香袋。
中には、最上のジャ香や竜脳が使われていたのかもしれません。
香料の持つ殺菌力でいつまでも朽ちずに残っていたその妙香に、玄宗皇帝の心は、いかんとも締め付けられかき乱されたことでしょう。
8世紀当時の香袋は現在中国に存在しておらず、この正倉院に残された小香袋が世界最古のものと思われます。あらためて、こうした貴重な文物が保存されてきた奇跡に感謝の気持ちがつのります。
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