香りに包まれた、おごそかな仏事の様子が目に浮かんできますね。
彼女は、14歳であどけない少女のまま、父親のような源氏の元に嫁ぎました。が、やがて忍んできた“柏木(かしわぎ)”という青年との密通により、不義の子を身ごもってしまいます。
やがてその秘密は源氏の知るところとなり、罪の重さに耐えかねた柏木の死や、自らの苦悩から、男の子を出産した後に若くして出家の道を選ぶのでした。
こうして、不幸にも不義の子を自分の子供として抱くことになった源氏の君ですが、この事実はかつて己が犯した罪を再現するものだったのです。

源氏は若き頃、実父の后である“藤壺の君”に恋した末、不義の子を産ませてしまいます。彼の脳裏には、わが子と疑わず赤子を抱き上げ喜ぶ父の顔が浮かんできたことでしょう。
罪の報いをこうしたかたちで現実に受け、彼の心は複雑に揺れ動くのでした・・・。
やがて最愛の女性”紫の上“も亡くなり、光源氏の内なる沈痛は深くなっていきます。
高貴の身分に生まれ、抜きん出た容姿・素養を持ち、栄華の道を歩んできたかに思われる人生、しかし反面数々の憂慮にもみまわれた。
人生の終焉の近づくことを感じ、老いた源氏の君の心に浮かぶのは、共に過ごした紫の上との思い出ばかりでした。
文中では、源氏の死について「雲隠れ」という巻名のみであらわされており、具体的に語られてはいません。読む者の想像にまかせるかたちで、光源氏の生涯は幕を閉じるのです。
『源氏物語』では、源氏が亡くなられた後の世を描いた十三帖のうち、後半の十帖を特に「宇治十帖」と称して独立させた読み方がなされています。
主人公として二人の魅力的な貴公子が登場しますが、彼らの性格は、光源氏のもつ陰陽の部分を二分するかのように描かれました。

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