現在、皇室の御紋章とされている菊紋は、鎌倉時代・後鳥羽上皇が菊花を好まれたことにより、天皇家に取り入れられていきました。
もともと菊は、奈良時代に中国からもたらされた植物で、当初は延命長寿の薬として伝わりましたが、次第にその花の高貴な香りと美しさから、宮廷貴族の庭で栽培されるようになっていきます。
秋の日の陰暦九月九日『重陽の節句』を彩る“菊の花”の清涼な香りを感じとり、菊に宿るといわれる霊力の秘密を探ってみることにしましょう。
江戸時代後期、大阪の遊郭・曽根崎新地に私生児として生まれた上田秋声 は、身体の弱い子供で、次第に神秘や幻想の世界に傾倒していきました。 文学を愛していた彼は、やがて日本や中国の古典物語に出会ったことで創 作した怪奇短編小説9編を『雨月物語』にまとめます。
今回は、その中にある有名な「菊花の約(ちぎり)」の物語を通して、菊に秘められた精神を読み取ってみることにしましょう。