『香り花房・かおりはなふさ』では、日本の香りと室礼文化を研究しています。

香り花房 ー『香りと室礼』文化研究所 ー
源氏物語の香り

「カヲル」と「ニホウ」
 「カヲル」とは、香りや煙が、どこからともなく漂い感じられるように“目に移らない精神的な風情の美しさ”を表すことに用いられました。
 それに対して「ニホウ」とは、古代において“視覚的色彩の美”を表す言葉でした。
 「丹(ニ)」とは魔除けの意味をもつ朱もしくは赤を、「穂(ホ)」とは突出することで、「ニホウ」という言葉は「赤があざやかに美しく外に輝きだす」という意味に使われていたのです。
  ゆえに、「薫君」と「匂宮」と言う彼らの名前からも、内面的美と視覚的美という二人の美しさの違いが感じ取れるでしょう。

 薫君の身体から発する香りは、恋の場面でさらに強さを増し、去った後にも強烈に彼の面影を残すのでした。
 薫君の恋の遍歴は、仏門に対する憧れと女性に対する執着が交差して入り混じり、香りのようにユラユラと揺れ動いていくことになります。
 「源氏物語」では、この二人の貴公子に愛されたがゆえに死を決意する姫君“浮船”との物語を最後に、結論らしい幕切れの言葉もなく、最終章「夢の浮橋」で終わりをむかえます。

 急に幕が降ろされたように筆をおいた紫式部ですが、ここにもまた彼女の何がしかの意図がこめられているのかもしれません。


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