従来の紫根染めの技法は、次のような工程を経ておこないます。
土から掘り起こした紫草の根を石臼などでついて砕き、湯につけ、しごくように揉み出すと、次第に赤紫の色素が浮き出てきます。
そうして得た染料液に湯を加え、処理をした糸や布を浸して絶えず動かすように染め、さらに、余分な色素を水で流した後、色を思い通りに定着させるために椿を燃やした灰を使った媒染液に浸し、染め上げていくのです。
今回、私はかねてから憧れていた紫根を手に入れ、絹の布地を染めてみることにしました。
様々な専門書を参考に、試行錯誤しての過程となりましたが、「浅紫」とも「藤色」ともたとえられないような美しい布の仕上がりに、思わずウットリとし、植物染めに魅せられている人々がしばし見せる、優しいまなざしの秘密に触れたように感じました。
植物から染み出してくる美しい色を、まっ白い布に移し取っていくという作業には、自然からの恵みを受けているという実感と共に、感謝や愛しさ、そして次第に謙虚な気持ちがわきあがってくるのです。
染色家の人々の穏やかな表情は、部屋中を満たす湯気と植物の放つ独特な香りに包まれることでつくられていくのでしょう・・・。
今回は、こうして染め上げた絹を用いて、晩秋に摘んだイチョウの葉や丁子などの香料を詰めた香包みをつくりましょう。
イチョウの葉には、防虫作用があり、その昔は本にはさんで“しおり”に使うなどしていました。
手で細かくちぎっていくと、ほのかに晩秋の香りが立ち上ります。
丁子は、トントン乳鉢で砕き、山奈も軽く香りを立てて合わせます。
最後に、キラキラした龍脳の結晶を混ぜて紙の香料袋に詰め、紫紺染めの香包みにおさめましょう。
それぞれの材料とも、殺菌防虫の効果をもちますので、衣装タンスや本棚などに入れておくと良いでしょう。
丁子のスパイシーな甘さとイチョウのせつない香りがミックスされ、秋の日にふさわしい薫りとなりました。
また、紫根の染料液には、抗菌や発疹をおさえる作用もありますよ。
植物の神聖な生命をいただくことで、あなたもユッタリとした気分になり素敵な秋の日を過ごせることでしょう・・・。