538年、百済より日本へ、仏教の教えが伝来しました。
この出来事により、自然の中に見出されてきた人々の信仰の対象が、眼に見えるものとして具現化されていくことになります。
553年「日本書紀」に日本最古の仏像制作の記録があります。
さらに607年には法隆寺が創建され、752年には東大寺の大仏開眼供養が執り行われました。
それまで日本では、身近に咲き乱れる植物を切り取り飾るという習慣があまりありませんでしたが、こうして寺院に安置された神々しい仏像を前に“美しい花をたむけると”いう行為が定着していきます。
と、仏典に説かれているように、様々な儀式において献花がおこなわれるようになりました。
「散華」というならわしも“お釈迦様がお生まれになったときインドの神々が喜んで空から花を降らせた”という故事に基づいておこなわれます。
奈良の東大寺や唐招提寺、薬師寺などの重要な法会のおりには欠かせない習いで、普通は紙製の花であることが多いのですが、椿の寺として有名な京都東山の法然院では、本尊である阿弥陀如来坐像の前に、季節にあわせた菊・椿・つつじ・紫陽花・むくげなどの生花が散華されます。
放射状に捧げられる美しい花々は、臨終の際に西方浄土より迎えに来るという二十五菩薩をあらわしており、一年一日も休まずにおこなわれています。
哲学の道から脇にすこし登ったところにあるこのお寺は、文豪谷崎潤一郎氏のお墓もありますので、ぜひ立ち寄ってみて下さい。
樹齢三百年の椿の花が地に落ちるのを惜しむ心から始まったといわれる散華の様子を、見ることができるでしょう。