2020年4月
香道志野流における香席の本歌といわれている
志野流十五世・蜂谷宗意(1803~1881年)の香席 「松陰軒」。
端正な十畳敷の京間には、向かって右に本床、左に天袋を備えた脇床が設えられ、
その様式は京都銀閣寺の義政公お好みの香座敷、
「弄清亭(ろうせいてい)」を模しているといわれます。
本床には掛け軸と香炉を置いた卓が置かれ、
脇床の志野棚には、乱れ箱に納めた香道具や火取母などが、さらに文台には硯が設えられます。
そして中央にあたる床柱には「訶梨勒(かりろく)」を、
脇床下座の管柱には「霊絲錦(れいしきん)」と呼ばれる掛け香が飾られるのです。
今回は、こうした志野流の伝統的な二種の掛け飾りを制作してみました。
資料がありませんので写真を参考にして制作したものです。
どうぞご覧ください。
「訶梨勒(かりろく)」
訶梨勒とは、中国・インドシナ・マレー半島に産するシクンシ科の落葉高木樹で、
その果実は褐色の卵型をしており薬用として大変に有効であるほか、
その香りの高さから香料としても用いられました。
そして室町時代には、象牙や銅・石などでこの実をかたどり、
美しい白緞子や白綾の袋に入れ緋色の組緒を結んで床柱や書院などに飾る風習が生まれたのです。
「霊絲錦(れいしきん)」
こちらは「霊絲錦(れいしきん)」と呼ばれる香席飾りで、
隅切り型の箱の中には香木や香料が納められました。
香席は、沈香と呼ばれる香木の微妙な芳香を鑑賞する席ですので
なるべく香りがあるものは持ち込まないという約束事があります。
そのため生花などは飾れませんので、
造花や花結びを用いた室礼などで季節感を演出するのですが、
霊絲錦の表面裏面には四季を感じさせる絵柄が用いられ、
飾る時に使い分けて季節感をあらわしました。
今回は、色留袖の絵柄であった美しい山水画を用いて制作してみました。
布には天然の綿を挟み、柔らかな風情に仕上げてあります。
訶梨勒・霊絲錦ともに大変趣深いお飾りですね。
こうした掛け香は、
邪気を祓う魔除けの意味合いを含んでいたと思われます。
まだまだ研究の余地があるかと思いますが、
これからも試行錯誤を重ね日本の美しい文化の一端をお届けして参ります。