2014年9月6日
浄土の香り
『維摩経(ゆいまきょう)』というお経の中に、
香積如来(こうしゃくにょらい)が住まわれるという
「衆香国(しゅうこうこく)」のお話が記されていますのでご紹介しましょう。
その国は一切が香でつくられております。
楼閣はかぐわしい香木でできており、園にある植物は香樹香花に満ち、
食する香飯(こうぼん)の香りは世界の隅々にまで漂うほどで、
これを口にしたものは心身が安楽になり
全身から芳香を発するようになるといわれます。
香積如来は言葉による説法はおこなわず、
香樹の下でただ種々の香りを聞かせて天人たちを導きます。
菩薩たちは妙なる香りを嗅ぐことで仏の教えを理解し
「一切徳蔵三昧」の境地へと導かれるのです。
敦煌の壁画には、
神聖な蓮華の香りを振りまいて教えを説く香積菩薩の絵が描かれています。
衣がユッタリとたなびき大変優美なお姿ですね。
敦煌の壁画
「蓮香を振りまく香積菩薩」第61窟
「蓮・100の不思議」
蓮文化研究会著書/ 出帆新社より
神秘に満ちた香りには、
魂を震わせ心を正す力が秘められているのでしょうか。
古代エジプトの神殿でアラーの神に捧げられた薫香、
教会の大きく揺れる銀香炉より白く立ち昇る香煙、
そして仏前で僧侶の読経とともに焚かれる香と、
いにしえの時代より祈りの場では香りが重要な役割を担ってきました。
人々は香りに包まれることで
神聖な空間に結界をつくるようにその場を清浄へと導き、
おおいなる神と交信する手立てとしてきたのでしょう。
人知の及ばない天が生み出した妙なる芳香には、
言葉を尽くした説法にも勝る力が
宿っていることを改めて思うのでした・・・。