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その55「国宝 源氏物語絵巻」徳川美術館

20151229_1137582015年11月14日

 

名古屋の徳川美術館が開館八十周年をむかえ

その記念行事として、国宝「源氏物語絵巻」が全巻公開されました。

 

 

私は和装に身を包み

品川駅より新幹線に乗り込み名古屋へと向かいます。

公開初日にあわせ、

美術館敷地に名古屋城などから移築された茶室では、

美術館協賛のもと川瀬敏郎先生の花会が14・15日にわたり開催されたのです。

 

ほどなくして降りたった名古屋駅は、

再開発の活気に満ち満ち、多くの人が行きかっておりました。

 

 

紫式部が著した「源氏物語」は、

成立当初から絵画化されてきたと伝えられますが

このたび公開された絵巻は

12世紀前半に白河院・鳥羽院を中心とする宮廷サロンで

製作されたもっとも時代をまとった絵巻です。

 

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その修復にあたる過程も垣間見れる本展は

じつに見ごたえのある展覧会となりました。

 

上から覗き込むように描かれた構図は

秘め事を垣間見るようにも感じられます。

 

そして何よりも心に残ったのは

光源氏が誕生したわが子を抱く「柏木」の巻でした。

 

源氏物語絵巻/柏木

 

 

絵の奥に赤子を抱く光源氏、手前には年の離れた正妻・女三宮がおりますが

彼女は14歳であどけない少女のまま、

父親のような源氏の元に嫁ぎました。

が、やがて忍んできた“柏木(かしわぎ)”という青年との密通により

不義の子を身ごもってしまいます。

やがてその秘密は源氏の知るところとなり、

罪の重さに耐えかねた柏木の死や、

自らの苦悩から男の子を出産した後に若くして出家の道を選ぶのでした。

こうして不幸にも不義の子を

自分の子供として抱くことになった源氏の君ですが、

この事実はかつて己が犯した罪を再現するものだったのです。

 

源氏は若き頃、

実父の后である“藤壺の君”に恋した末、

不義の子を産ませてしまいます。

彼の脳裏には、

わが子と疑わず赤子を抱き上げ喜ぶ父の顔が浮かんできたことでしょう。

罪の報いをこうしたかたちで現実に受け、

彼の心は複雑に揺れ動くのでした。

 

何とも臨場感あふれるこの場面ですが、

その修復前のエックス線画像から

赤子の両手が源氏の頬へと伸ばされていたことを知ります。

 

何も知らずに手を伸ばすその無邪気さが

悲しくもあり切なくもあり

私は一瞬にして絵巻のなかへと引き込まれていきます。

 

また、川瀬先生の曇りのない花を拝見した後だったからでしょうか。

 

本物の発するオーラの強さに感じ入り

本物に触れる大切さを改めて思うのでした。

 

日帰りの短い名古屋でのひとときでしたが

心満たされた一日を過ごした余韻にひたりながら帰途へと着いたのです。

 

 

徳川美術館・蓬左文庫開館八十周年記念特別行事

     

・「国宝 源氏物語絵巻展」 

・川瀬敏郎「花会」 餘芳軒・山ノ茶屋・心空庵にて

12世紀に製作されたといわれる国宝源氏物語絵巻を修復、全巻展示。

園内茶室にて美術館協賛のもと川瀬先生の花会が執り行われました。

 

 

 

2015年12月29日 up date
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