日本の香りと室礼

目次

その弐「くゆらす」

源氏香

『源氏物語』は十一世紀はじめに執筆された王朝物語です。
主人公である光源氏の人生を描いた本編と、
彼亡き後の世界を描いた後編とをあわせ全五十四帖に構成されています。
作者である紫式部という女性の詳細はあまり伝えられていませんが、
幼くして母を亡くした後は優れた詩人儒教学者だった父親の教育をうけ成長しました。
二十六歳のときに当時としてはかなり遅い結婚をするのですが
三年後には夫に先立たれ
三十歳前後のときに藤原道長の娘であり後に一条天皇の妃となる彰子(しょうし)の女房として
宮中に上がり『源氏物語』を描きました。
彼女がいかに才媛であったかは物語を一読すればわかりますが、
華やかな宮廷生活とはうらはらに、
どこか物憂げで人生を冷静にみつめる彼女のまなざしが物語の全般にただよいます。

紫式部図部分 土佐光起画 石山寺蔵紫式部図部分 土佐光起画 石山寺蔵
組香【源氏香】

江戸時代に流行した遊びのひとつに「源氏香」と呼ばれる組香があります。
「組香」とは文学的要素をもとに香りを楽しむ奥深い聞香で、
多くは和歌や物語・季節の風物をもとに考え出され、
二種類以上の香木を焚き
その香りを聞き当てるという遊戯的要素をもった香遊びです。

源氏香之図源氏香之図

源氏香の香りを聞きあてる答えは五十二通りにもおよびます。
源氏物語は五十四帖から成り立っていますので、
最初の巻“桐壺”と最後の巻“夢浮橋”を除いた
五十二帖の巻名を図式化した源氏香之図と呼ばれる図形に当てはめることによって、
各人が答えを記帳するのです。
源氏香之図はいったい誰によって考案されたのかは不明とされていますが
機能をそなえたその素晴らしいデザインは、
古来より様々な調度・意匠などに用いられてきました。
あなたも是非、心惹かれるお姫様や四季あふれる物語の内容などから
お気に入りの香之図を覚えておかれると良いでしょう。

「香料の薬包み」
「香料の薬包み」
(調合)白檀・桂皮・丁子・甘松・貝香・龍脳
香料を伝統的な“薬包み”に折り上げて栞に挟みました。古来からある“薬包み”はじつに機能的な折方で、細かい粉末香料をもれることなく保護してくれます。
↑このページの一番上へ