日本と香り

目次

その参「飾る」

九月九日(重陽・ちょうよう)

「九月の平薬(ひらくす)」
「九月の平薬(ひらくす)」
『懸物圖鏡(かけものずかがみ)』西村知備(にしむらともなり)著

九という陽の数字が二つ並ぶおめでたい重陽の節句には、
菊花を飾り花びらを浮かべた菊酒を飲み、
綿を被せて一晩置いた菊の露で肌をぬぐう
被綿(きせわた)を贈り合うなどして長寿を祈りました。
奈良時代にもたらされた菊の花は、
中国では梅・竹・蘭と共に四君子として敬われていたのです。

有職飾り 「錦秋の薬玉」
有職飾り「錦秋の薬玉」
有職飾り「錦秋の薬玉」
大輪菊・中輪菊・小菊・紅葉楓・銀杏・薄・六色打紐など

大輪の菊に赤もみじ・黄色イチョウ・薄や小菊など季節を彩る草花を合わせ、
淡路結びをほどこした六色の組紐で構成した薬玉飾り。
紐はスゥッと長く下へと垂れ下がり、床になびく様が大変優雅でしょう。

普段なかなか目にすることのない有職飾りを、
ぜひ暮らしに取り入れて欲しいという思いから製作してみました。
その色彩は極彩に近いもので構成され、
陰陽道とも深く結びつき独特の美しさを放っています。

『清光の菊花のポプリ』
「清光の菊花のポプリ」
「清光の菊花のポプリ」
(材料)菊花・白妙菊・ハッカ・セージ・丁子・八角・サルトリイバラの実・銀杏・紅葉・竜胆など秋の彩り
「菊」というと仏前の花というイメージが強いかもしれませんが、秋の日の野菊の香る様子はじつに穏やかで心地よく流れる風に良く似合います。その香りは涼やかであり清冽であり、日本人の精神にも通じる独特の香気を放っているといえるでしょう。

薬効高き霊力を秘めた菊の花を用いたポプリをつくりましょう。
菊の花は大変に乾きにくいお花です。
花びらをばらして重ならないように紙の上に広げ、
温風器の前やコタツの中を利用して乾かすと良いでしょう。

組み合わせとする白妙菊の葉やハッカ・セージは軽くもんで香りをたて
香辛料の丁子と八角は乳鉢であらく砕きます。
すべてを合わせ密閉した状態で一~二週間ほど
冷暗所で熟成させそれぞれの香りをなじませます。
やがて香りが混じり合いひとつに調和したらお気に入りの器に盛り付けてください。
紅葉や赤い実・竜胆などを飾り
菊花の咲き乱れる秋の日を演出してみましょう。

菊は花葉ともに薫り高い植物ですのであえて香りのオイルは加えずに、
古代中国の時代から愛されてきた
菊本来の清らかな香りを楽しむことにいたしましょう。

『槙に秋草図屏風』酒井抱一画 江戸後期 細見美術館蔵『槙に秋草図屏風』酒井抱一画 江戸後期 細見美術館蔵
重陽の節句飾り 「茱萸嚢(しゅゆのう)」
「茱萸袋(ぐみぶくろ)」
「茱萸袋(ぐみぶくろ)」
『懸物圖鏡(かけものずかがみ)』西村知備(にしむらともなり)著

古代中国では九月九日の重陽節に、
実のついた山茱萸の枝を頭に挿して小高い山に登り、
気持ち良い秋の風に吹かれながら、菊酒を飲んで災いを払う風習がありました。
これが日本へと伝わり奈良平安時代の宮中では
菊花と赤い実をつけた山茱萸の造花を
“あわじ結び”を施した美しい袋に飾る『茱萸嚢(しゅゆのう)』が作られ、
翌年の端午の節句の薬玉飾りと掛け替えるまで
自邸の御帳台の柱に吊るし魔除けとされました。

重陽の節句飾り「茱萸嚢」
重陽の節句飾り「茱萸嚢」
古布帯地(松に尾長鶏文様)・茱萸・中輪菊・小菊
・編みかけ房頭付き打紐・紅絹・呉茱萸・綿

美しい裂地は古布店で見つけた時代物の帯地。
松模様の中に長い尾をひるがえした二種の鳥が舞い飛んでいます。
造花には菊花とグミをとり合わせるのが決まりですが
グミの造花はありませんので、枝に赤い実を取り付けグミの枝を制作しました。
飾り紐は、裂地に合わせて”えんじ色”に染めていただき
格調高く房を「編みかけの房頭」に仕立てました。
収納を考え造花部分は取り外せるようにしておきましょう。

『茱萸嚢』酒井抱一画 「五節句図」部分『茱萸嚢』酒井抱一画
「五節句図」部分

茱萸嚢の中には、乾燥した“呉茱萸/ごしゅゆ”の実をおさめます。
そのピリッとした刺激的な芳香には
虫を遠ざけ毒を消し去る力が秘められおり、
辛みが強い程に良品といわれ、
邪気や病い・湿気までを取り除く力がみなぎっているとされています。
取り寄せた袋をあけると確かに独特のクセのある強い芳香がただよい、
虫も驚き逃げていくことでしょうと感じます。

漢方薬店から取り寄せたゴシュユ漢方薬店から取り寄せたゴシュユ 漢方薬店から取り寄せたゴシュユ
↑このページの一番上へ