九という陽の数字が二つ並ぶおめでたい重陽の節句には、
菊花を飾り花びらを浮かべた菊酒を飲み、
綿を被せて一晩置いた菊の露で肌をぬぐう
被綿(きせわた)を贈り合うなどして長寿を祈りました。
奈良時代にもたらされた菊の花は、
中国では梅・竹・蘭と共に四君子として敬われていたのです。
大輪の菊に赤もみじ・黄色イチョウ・薄や小菊など季節を彩る草花を合わせ、
淡路結びをほどこした六色の組紐で構成した薬玉飾り。
紐はスゥッと長く下へと垂れ下がり、床になびく様が大変優雅でしょう。
普段なかなか目にすることのない有職飾りを、
ぜひ暮らしに取り入れて欲しいという思いから製作してみました。
その色彩は極彩に近いもので構成され、
陰陽道とも深く結びつき独特の美しさを放っています。
古代中国では九月九日の重陽節に、
実のついた山茱萸の枝を頭に挿して小高い山に登り、
気持ち良い秋の風に吹かれながら、菊酒を飲んで災いを払う風習がありました。
これが日本へと伝わり奈良平安時代の宮中では
菊花と赤い実をつけた山茱萸の造花を
“あわじ結び”を施した美しい袋に飾る『茱萸嚢(しゅゆのう)』が作られ、
翌年の端午の節句の薬玉飾りと掛け替えるまで
自邸の御帳台の柱に吊るし魔除けとされました。
美しい裂地は古布店で見つけた時代物の帯地。
松模様の中に長い尾をひるがえした二種の鳥が舞い飛んでいます。
造花には菊花とグミをとり合わせるのが決まりですが
グミの造花はありませんので、枝に赤い実を取り付けグミの枝を制作しました。
飾り紐は、裂地に合わせて”えんじ色”に染めていただき
格調高く房を「編みかけの房頭」に仕立てました。
収納を考え造花部分は取り外せるようにしておきましょう。
茱萸嚢の中には、乾燥した“呉茱萸/ごしゅゆ”の実をおさめます。
そのピリッとした刺激的な芳香には
虫を遠ざけ毒を消し去る力が秘められおり、
辛みが強い程に良品といわれ、
邪気や病い・湿気までを取り除く力がみなぎっているとされています。
取り寄せた袋をあけると確かに独特のクセのある強い芳香がただよい、
虫も驚き逃げていくことでしょうと感じます。